読まなきゃ損
その作品は怪奇と幻想とに彩られ、エロは少々、グロでナンセンス、いかにも「探偵小説」らしい探偵小説を書いた海野十三は、また、「日本SF小説の父」とも称され、数多くのSF小説(というよりは空想科学小説といったほうがピッタリ)も発表しました。そんな作者の短編十五作にエッセイ一作、本書にも収められた短編を城昌幸が脚本化したもの一作をまとめた短編集です。
十五編のうち、ほとんどが探偵小説ですが、タイトルだけで魅力的、『振動魔』に『赤外線男』、『三人の双生児』などなど、もうこれだけで十分に楽しい。
「また帆村 少々無理な謎を解き」 帆村とは作者の創造した名探偵 帆村荘六のこと、こんな川柳が当時作者が作品を発表していた紙面に載った(らしい)ことからもわかるように、その内容は少々というよりはかなり無理、ミステリとしてマジメに読んでいたら、帆村名探偵の謎解きを聞いたら怒り出してしまいそうなものが多くあります。が、これが良いのです。もう、「無理」だとか「バカにしている」、「こじつけ」、「子供だまし」とかいったものを、はるかに超越してしまっているのです、海野作品は。
ですが、こういった理由で海野作品を嫌って読まずにいる本格ミステリのファンの人もいるでしょう。損してますよ、こんなにおもしろいのに。そんな方にはここに収められている一編『不思議なる空間断層』を読んでもらいたいですね。これは本格ファンにも納得できるような技巧的な一作、こういったものも書けたんだと、きっと驚くことでしょう。
大好きな作家、もっともっと評価されてよい一人だと思います。
こういう作家がいたんだ
安部公房展が目的で世田谷文学館に行ったのだが、常設展の中で海野十三が紹介されていた。
ちょっと興味を持ったので早速Amazonで検索し、入手。
作品世界は好きなのだが、他の巨匠と比べてしまうとやはりちょっと物足りなさがあるのは否めません。ポー(星5つ)、江戸川乱歩(星4つ)、海野十三(星3つ)という感じだろうか。
探偵小説アンソロジーの大成果、ちくま文庫『海野十三集』を称える
■ちくま文庫の《怪奇探偵小説傑作選》《怪奇探偵小説名作選》のシリーズは、名アンソロジスト・日下三蔵氏の企画編集によるものである。日下氏は重要な仕事を良くこなしておられると思う。<p>■本書には、海野十三の主要な短編が手際よく網羅されている。目次から拾うなら「電気風呂の怪死事件」「振動魔」「爬虫館事件」「俘囚」「人間灰」「不思議なる空間断層」「生きている腸」「三人の双生児」。これらの代表短編により海野ワールドが堪能できる構成となっている。<p>■さらに本書には、三一書房版『海野十三全集』未収録の小説・随筆等が5編収録され、これが大変貴重だ。メモしておくと、①「点眼器殺人事件」、②「顔」、③「盲光線事件」、④「『三人の双生児』の故郷に帰る」、⑤「盲光線事件(!脚本)」。どれも貴重なものだが、特にありがたいのが④。これは海野が故郷・徳島市のことを綴った非常に珍しい望郷ルポで、幼少時の原風景を記した重要文献といえる。しかも初出誌『シュピオ』の誌面から写真7点を復刻掲載している(撮影者は海野)。海野が小学3年まで住んでいた徳島市安宅町の家や彼が遊んだ四所(ししょ)神社の風景などが、鮮明に再現されており申し分ない。これは快挙といってよい。この随筆1本だけでも、本書購入の価値は十分あると私は思う。<p>■筑摩書房はこの種の作品集を大事にする版元なので、本書も5年くらいは流通するのではないか。入門書として最適であり、新たな海野ファン獲得に大いに貢献するものと思われる。本書は、大きな成果だった。
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